就業前のキャリア教育

最近は,大学教育の中で「キャリア教育」という言葉を聞かないことはありません.それだけ,キャリア教育は重要視され,これから積極的に取り組まれるべき事だと考えられているのだと思います.山形大学でもキャリアデザインという授業が開講されており,僕も,キャリア教育は学生にとってとても大切な取り組みだと思います.

 

「キャリア教育」といっても,就業前の学生(中学〜大学)を対象にしたものと,就業後初期の新米を対象にしたもの,中堅,ベテランと様々だと思います.ですので,キャリア教育の方法や内容自体は,対象によって分けられていくのだと思います.

 

では,就業前の学生を対象にしたキャリア教育はどうあるべきなのか.

「仕事観」をテーマに少し考えてみました.

 

仕事観は,1)内因的仕事観,2)功利的仕事観,3)規範的仕事観の3つに分類することができるといわれています.

 

ざっくりいうと,

 

1)仕事自体に対するやりがいや自己成長,自尊心に繋がる仕事観.

2)社会的地位や権限・裁量,金銭的成功に繋がる仕事観.

3)会社・社会・次世代のためといった,他者への貢献に繋がる仕事観.

 

です(あくまでざっくり言うとですが...).

 

こうやって3つに分類してみると,2)は就業前の学生でも十分にもつことができる仕事観だと思います.

例えば,「社長になる!」「年収○○円達成」といった形で,言いやすいですし,聞いている方もイメージがとてもしやすいものです.

 

しかし,1)と3)については,就業前の学生にとっては非常に難しい仕事観となります.

なぜなら,その業界に実際に従事する事によって(その会社の正統な成員性を確保することができてから),はじめて具体的な感覚を持つことができるからです.

 

採用する側もリクルート向けに示す外部向け情報と,入ったメンバーに対する内部情報で区別するのはあたりまえのことです.ですので,webや書籍で入手する情報には限界があります.

 

そう考えると,「就業前のキャリア教育による内因的仕事観・規範的仕事観の獲得」は,慎重になるべきなのかもしれません.その業界に従事することなく内省を繰り返した結果,勝手なイメージが出来上がってしまい,実際に就職した後で「こんなはずじゃなかった」となってしまう可能性もあるからです.

 

「自己理解」によって向いている仕事,そうでない仕事を考えるというのはキャリア教育のオーソドックスな手法なのかもしれませんが,あくまでそれは何も知らない状態での「自己」であって,それが「就業後の自己」 とどれだけ近いものであるかは,じっくりと判断する必要があります.2つの自己(職場に入る前の自己と入ったあとの自己)の距離が遠くなれば遠くなるほど,リアリティーショックも大きくなるのでしょう.

 

就業前のキャリア教育.

 

とても重要なテーマですので,大学教育に携わる人間として,これからも考えていきたいと思います.